乗鞍 ツアーコースで雪崩
天気:吹雪
メンバー:さかい
10:00 かもしかゲレンデ
12:00 ツアーコース2350m付近
12:30 雪崩事故発生
13:00 下山開始
位ヶ原へ向かうツアーコース。
あろうことか通い慣れたこの場所で雪崩に巻き込まれてしまった。
入山する前々日の晩、乗鞍高原の山小屋で後輩と酒を飲みながらこんな話をしていた。
後輩:「明日から乗鞍岳の方へ行ける所まで行ってみます。」
さかい:「天気が悪そうだから気を付けて、、、」
「位ヶ原より上は行かない方がいいな。ツアーコースは道に迷うことはないけど、雪崩の起きそうな所があるね。」
後輩:「どこですか?」
さかい:「かもしかゲレンデのすぐ上の壁と、位ヶ原直下の壁…」
翌日(12月30日)、後輩達は乗鞍へ向かい出発した。テント泊らしい。私は山小屋へもう1泊し、12月31日の朝、乗鞍を目指した。
午前10時 かもしかゲレンデ上部発
昨日から降り続いた雪は止む気配がない。
運動不足と深雪でかなりきつい。それでも良いペースでツアーコース入口の壁を登り、11時頃、ツアーコース脇に後輩達のテントを発見。彼らも丁度出発の支度をするところだった。悪天候のため早朝からの出発をあきらめ、この時間まで様子を見ていたらしい。私は先に出発したが、若い後輩達はすぐに追いつき抜かして行った。
その後別の山スキーヤー2人が私を追い抜いて行った。
12時頃
位ヶ原へ上がる最後の壁に差し掛かる。雪はさらに深く、スノーシューでも激しいラッセルを強いられる。先行者のトレースが頼りだ。しかし、それがいけなかった。
いつもなら、ツアーコース切り開きの端の方をほぼ直登して位ヶ原へ出るのだが、この日は違った。体力不足のため自力ラッセルでの直登を嫌い、ツアーコース切り開き中ほどの急斜面をトラバースする先行者のトレースを選んでいた。無意識に…
吹雪のため視界が悪い。深雪にあえぎながら少しずつ高度を上げていくと、先に登った後輩達の声が聞こえてきた。もう少しだな、、、次の瞬間、音もなく山側の雪が崩れ、私に襲いかかった。
なす術もなく斜面に投げ出された。
どうやら頭を下にしうつ伏せの体勢で流されているようだ。ゴーグル越しに灰色の雪粒が激しくぶつかるのが見える。その雪粒は容赦なく口の中へ入り込み全く呼吸ができない。両手で顔の前の雪をかき分けなんとか空気を確保することができた。一瞬の出来事だったのだろうが、ずいぶん長い間流されていたように感じた。
流れる速度は次第に緩くなり、止まった。
私の体は雪と静寂に包まれていた。
意識はある。助かったのか?
全身雪に埋もれているが暗くはない。どうやら深い位置ではなさそうだ。腕を挙げてみるとあっけないほど軽く動く。運良く雪が軽かったのだ。その場で少しもがくと、私の周りの雪が蟻地獄のように崩れ、ぽっかり空いた穴から吹雪の外界が見えた。
「おーい!」
と大声をあげ、後輩や他の先行者へ無事を伝えると、自力で這い上がり、斜面脇の木の下へ身を寄せた。怪我は無く、携行品の損害はスノーシューへ装着したフローテーションテールを流失しただけった。
大雪、急斜面、表層雪崩の条件は整っていた。それに加え、単独での入山・体力不足が今回の事故を引き起こしてしまった要因である。
もし何人かパーティーを組んでいれば、メンバーの誰かが斜面トラバースの危険に気づいたかもしれない。また、十分な体力があれば危険を判断する余裕があったに違いないし、自力で安全なルートを確保できたはずだ。
しかしながら、私自身無傷であったし、付近にいた人達を巻き込む大災害にならなかったことは、不幸中の幸いである。
身を挺して後輩達に悪いお手本を示してしまった自分が情けない。
↓写真は雪崩直後の斜面